ブルとベアは稼げるが、豚は屠殺される
講釈:
もう何年も前のことだ。ニューヨークに住むアメリカ人の友人と久しぶりにしゃべった。
「やあ、ジム、久しぶりだ。相変わらず飲んでるのか」ウェブ画面にあらわれた彼はベッドの上でシャンパンをあけていた。
「ああ、僕ちゃん(彼は筆者のことをこう呼ぶ)。今週はポンドの売りで8千ドル稼いだ。今夜は早じまいってとこだ」彼の明るく若々しい声は健在だった。
「そりゃうらやましい。俺の方はこのところ、なかなか手が出なくて苦戦している。売るにしろ買うにしろ勇気が出ないのだ。どうしたらいいだろう?君ならなにかヒントをくれそうだからね」
筆者の苦戦の理由は明白だった。その頃の日経平均は4ヶ月に及ぶ保ち合い期間を抜けて、ここ半月ほど毎日のように上昇していた。静かな保ち合い相場に慣れ切っていたせいか、この上昇の波に乗れずにいたというわけだ。明らかに上げ過ぎだ。いくらなんでももう調整するだろうに・・・。
「”MOW is MADA、MADA is MOW”ってやつだね。いかにも日本人らしい考え方だ。そうだ、ウォール街の格言をひとつ教えよう。”ブル(牛)とベア(熊)は稼げるが、ホッグ(豚)は殺される”というものだ。さすがに聞いたことはあるだろうが、これには続きがあるのを知ってるか。その続きというのは ”そしていつも勝つのはデ・ニーロ(カメレオン)だ” だ。あまりに危険すぎていつのまにか消されたってことだね」
その時筆者は彼の「日本人らしい」という言葉に、むしろ筆者自身への揶揄が多分に含まれているということを嗅ぎ取っていたが、それには触れずに質問した。
「なぜ消されたんだ?誰が消したんだ?」この質問は彼のアルコールメーターをどんどん上げる触媒になったようだ。
「そりゃ証券会社に決まってるだろ。彼ら『胴元』にとっては顧客がロング、ショートの一方に傾くことがイヤなんだよ。両者トントンでないとどちらが勝っても負けてもその後の手数料収入に響くからね。顧客はブルとベアのどちらかに賭けることを強要される。そして優劣が生じたなら、劣勢の方を煽いで他の客や資金を味方させるってわけだ。これでどちらが勝っても決まった収入が確保できる、それが狙いなのさ」
「かれら胴元は、顧客が勝てるようにと色んなテクニカルを教えてくれる。移動平均線を使いなさい。ボリンジャーやRSIは過熱感を計るのに便利だよ。他にも・・・・、あなたの個性にあったツールを見つけて儲けてください、とね。でも根本のところは言わないんだ。そして投資は自己責任で、という自分たちにとって都合のいい言葉で責任逃れするだけだよ」
「だからさ、デ・ニーロなんかになってもらっては困るんだ。その都度その都度、色を変えて相場を上手に泳ぐカメレオンは毛嫌いされる。勝手に達人になった客は仕方ないが、儲けられないで苦しんでいる顧客に対しては、今はブルだ、いやベアだ、もうすぐベアだ、またブルかも、などと煽いで感覚を狂わせるのさ」
相変わらず、彼のBad , Bad , Whiskyには辟易させられる。本当はもう少し話を突っ込みたかったが、電話を終えることにした。
「ありがとう、ジム。いい話だった。もうすぐ市場が始まるので切るよ。いい夢見ろよ」
「ああそうする。最後は焼酎だ。焼酎飲んで眠るだけだよ。グッバイ」
彼はなおも日本留学時代に覚えたフォークを歌おうとしたが、その前にスイッチを切ってやった。
・・・・・・・・・・・・・
その夜、筆者は考えた。デ・ニーロとは何を指すのだろうかと。もしその都度その都度で賭け方が違うのであれば、豚と一緒ではないか。感情に流され、理性を失ってその場の状況に踊らされて掛け金を失うのがホッグならば、デ・ニーロはその逆だ。いつも冷静で相場を観察し、自分の手法に沿ってトレードできるやつがカメレオンだ。
だがそんな抽象的な事だろうか。アメリカの証券業界が必死になって封印しようしたほどのことなのだ。もっと具体的な、方法論的なものに違いない。それはなんだろう・・・。
筆者はあれからずっとそれを探っている。
≪了≫
<あとがき>
この相場格言曲解シリーズは、またしても筆者の思いつきで、続けられるかどうか自信がない。なんせ何十年も身に付いた三日坊主癖はそうそう治らないからだ。それでもこれは面白い企画で、あまのじゃくな筆者らしく、東西の有名相場格言を筆者流に解釈していきたいと思っている。第2回があることを、アーメン。尚、書いてあることは嘘が多い。
◆相場格言曲解講座
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